ムチツジョチツジョ

思考は無秩序 言葉は秩序 趣味と股間は無節操

就活に向いてなかった話

※就活生の方へ
これは「自己PRなんて自分のような屑には許されない」的な思考が働くタイプの人以外には役に立ちません
もっと言うと「自分は就活自殺とかするタイプだ」という自覚のある人間向けです
しかも無駄に長いのでそれよりも
この小説読んでお帰りください
がんばってね
 
 
 
今日は2018年3月1日。
2019卒就活の企業エントリー開始が始まるそうだ。
懐かしい、俺もほんの少しだけ就活生だった時期がある。
その年はかつてない売り手市場で、最終的な内定率は97.6%だったという。etiquette-fragile-avec-verre-105x74mm-500.jpg (600×600) 
「つまり、俺は選ばれし2.4%な訳よ」
卒業後、就職した友人達と酒の席で冗談めかしてそう言った。
ゲラゲラと、なるべく下品に笑ってみせる。
あの真っ只中なら「笑ってる場合か」と説教かましてきた奴も一緒に笑う。
 
「まあ、出来るなら就職なんてしない方がいいんだよ」とひとりがぼやく。
「働くことなんて何のメリットもねえよ、金が続く限り遊ぶべきだ」
彼は面接で例の逆質問で「有給はちゃんと取れますか」と後ろめたさも感じずに聞いたらしい。
海外旅行にさえ行ければどこでもよかった、という彼はなぜか内定の出たその会社にさっさと決めてしまった。
その人間性が露呈したからかどうかは不明だが、今では僻地に飛ばされ絶望しながら会社員をやっているそうだ。
 
ここの奴らは、それぞれ多様な決定をした。
「さっさと生涯年収を稼いで田舎で暮らす」と豪語し某大企業に行った奴、最後まで志望業界が迷走した結果友人にそそのかされてITに辿りついた奴、幼い頃に命を救われた職業に就いた奴……
 
一方2.4%の選ばれし俺は、何も決定できずにここでただビールを飲んでいた。
「昔だったら俺も『どうせいつかは働かなきゃなんないのに、なんで今動かないんだ』とか言ったけどさ」
居酒屋のメニューを見ながら田舎暮らしが言う。
「でもそういうことじゃないんだよね、すぐに選択することが偉い訳でもないんだ、将来について考える時間はいくらあっても足りないんだから」
頼むものが決まったらしい。
彼は呼び出しボタンを押した。
即断即決。
ラストオーダーが近いためとはいえ、人に言ってることと自分のやってることが真逆だ。
 
彼自身はそういう奴だから、真逆の俺に気を遣った台詞なのだろう。
思いやりが痛い。
曖昧な励ましなんて辛くなるだけだ。
……そんなことばかり考えるから2.4%になったのかもしれない。
結局、就活とはなんだったのだろう。
今でもときどき、考える。
 

 

※ ※ ※ ※ ※
 
 
日本の就活はいわゆる新卒一括採用というもので、なんの経験もない学生を「ポテンシャル」という曖昧なものだけで迎え入れる訳だ。
このことについて随分と批判があるらしい。
そりゃあそうだ、謎かけみたいな面接で人間性や仕事の出来不出来が分かるわけがない。
……と、思っていた。
 
しかし企業・業界対策というのは「どれほど自分の会社に入る意思があるか」のフィルターになるし、ガクチカ(「学生のとき力を入れたこと」の略称だ、くだらない)や自己PRはプレゼン能力を見定めるのにピッタリだろう。
なにより、「私はあなたの会社で役に立ってみせます、それだけの人物であることを保証します」と言えるのだ。
自信過剰も問題だが、このぐらいは他者と、社会と接する上では必須だろう。
「就活は恋愛に似ている」と誰かが言っていた。
まさにその通りだ。
恋人なんていたことないし、作れる気もしない。
相手にメリットもないのに「僕と付き合ってください」なんて言う資格がどこにある?
 
 
回避性人格障害というものらしい。
自尊感情が著しく低く、批判を極度に恐れ、人との交流を望みながらもそれを避けてしまう。
コミュ障ここに極まれり、という症状が全て自分に当てはまり笑ってしまう。
就活に向いていないとかそんなレベルではない。
人生を送ることすらギリギリである。
ただ友人に恵まれただけかなりマシだろう。
大学時代サークルに入っていなかったらどうなっていたか、想像したくもない。
 
さて、就活は初めに自己分析とやらをするのが欠かせないそうだ。
「そんなもの無駄だ」と主張する人間も多いが、個人的には結構大切だと思う。
一般的なものでオススメなのはMBTIだ。
俺はINFPという「平和主義者」「議論好きの批判嫌い」「すぐに理想の世界に引きこもる」とこれまた就活に不向きの性格を引き当てている。
「定期的に友人関係をすべて断って一人になろうとする」なんて人間、俺以外にいたんだな。
 
ただ、俺の言っている自己分析というのは性格診断ではなく、もっと直接的なことだ。
それは「自分と仕事の距離」とでも言おうか。
例えばさっき話に挙げた有給や田舎暮らしは自分の生活と仕事の距離をかなり遠ざけている。
「仕事なんて金を貰う手段だ」と割り切れるなら、譲れない条件から逆算していくだけだから選択自体はかなり簡単だろう。
問題は距離が近い人間の方だ。
仕事に自分の存在価値を見出す……というのは言い過ぎだとしても、「なぜ自分は仕事ができないのだろう」と思い悩む人間は適性や嗜好から慎重に辿っていかないとのちのち辛い目に遭う。
そして、大半の人はこちら側だと思う。
 
「金さえあれば」と言うのは簡単だが、社会と自己を切り離せるのは本当に強い人間だけだ。
ほとんどの場合、人の役に立つとか立たないとか、あいつより成績が良いとか悪いとか、そんなことを基準に自分を考えてしまう。
ご多分に漏れず俺も「自分の生きる価値は」なんてものに苛まされる訳だ。
 
喉元過ぎればなんとやら。
「就活なんて適当でいいんだよ」「落ちたのはその会社と合わなかっただけ、君に問題はないよ」「なにをそんなに悩むことがあるんだ」と無責任にのたまう大人は本当に多い。
俺はそいつらを■してやりたいと何度思ったか知らない。
会社からNOを何度も突きつけられてみろ、「お前は社会に必要ないんだよ」と受け取るなという方が無理だ。
でも仕方ないのだ、俺が自信満々に自分を売り出すことができないから。
 
こうして堂々巡りの思考になると、俺は必ずこの作品を読み返していた。
 
(゚、゚トソンフラジールのようです
 
俺が中高のとき狂ったように読み漁ったブーン系小説というネット小説のジャンルだ。
この作品は他と比べ地の文が多くスターシステム特有のお約束ネタもほとんどないため、顔文字と特徴的な名前さえ気にしなければ普通の小説として読めるはずだ。
(ちなみにリンク先はなぜか最終章だけ表示されず、カッコの方は全部表示されるけど別タブで開いてくタイプの広告がウザい。そのへんはうまいこと読んでくれ)
 
あらすじを説明しておく。
人間関係に消極的な女子大生・都村トソンは就活を控えている。
そんななか趣味の小説執筆のネタになるかと探していた「変人」が見つかったと友人から教えられる。
難航する就職活動と並行して、「変人」内藤ホライゾンとの奇妙な交流が続く。
それは自分という人間の正体を暴く行為だった。
葛藤の末に行き着いたトソンの、内藤氏の選択は——
 
こんな感じである。
とにかく文章を読んでほしい。

しかし、果たして今までの人生において、したいことなど一度でもあったのだろうか?
そしてそのために今日までの時間を費やしてきたのだろうか?

 

私は漫然と高校まで進み、偏差値と照らし合わせて大学を選んだ。
心理学を選んだことにも大した理由はない。
その証拠に、同じ大学の法学部も受験していた。

 

だから私は思うのだ。就職活動は第三者による煽りに過ぎないのではないかと。
本当に自分のしたいことなど探さずとも、それなりの企業に入って、
それなりの仕事をこなしてそれなりにやっていければ、それでいいのではないかと。

 

結局、深く悩みすぎているだけなんだ。もう少しシンプルに考えたって良いだろう。
今までも選んでこなかったのだから、これからも選ばなくたって構わないはずだ。

 

……なんて、考えているうちに、今夜も何もせず終わる。
何故私はこんなにも、何もしない理由を探すのが得意なのだろう。

2.決めない 

(゚、゚トソン「私が就職活動をしてるのは、何と言うか、私自身が、そういうレベルなんだなって、
     思うからなんです。色々な、してみたい物事に、手が届かないと、気付いているんです。
     いや、それに、仕事をしながらでも小説は書けますし、まずは、生活の、基盤を……」

 

自らの無能を語ることは、快楽にも似た愉悦を得られるのではないだろうか。
私はただ頷いて聴いてくれる内藤氏を前にしてひたすら自分を紹介していた。

 

他人の記憶の中で自分が貶められるのは我慢ならずとも、
自分で自分を貶める分には何の躊躇いも必要無いのだ。

6.引かない 

从 ゚∀从「でもトソン、お前はちょっとだけ漫画みたいな奴なんだよ。
      お前は俺とか、ブーンとか、そういう漫画っぽい奴を、全部受け入れる。
      変人を好むから清濁併せ呑むんだ。それ自体は悪いことじゃないし、確かに良い経験だろうぜ」

 

从 ゚∀从「でもな、あまりに全部を呑み込んでたらどうなるだろう。
      お前が新しく一つ呑み込むたびに、お前の人生に登場人物が一人増える。
      更にお前はその人物を理解しようとするから、増えるどころか複雑にもなる」

 

从 ゚∀从「それって、お前が思ってる以上にお前にとって負担になってると思うぜ」

8.消えない

俺は人生でこれほどまでに「自分のことが書かている」と思わされた小説は存在しない。
太宰なんて目じゃない。
どうしてこんなに恵まれているのに辛いのだろう。
トソンはいいヤツだし、彼女に共感できる自分もひょっとしてもしかしたらいいヤツなのかもしれないけど、それでも否定の言葉が自分を塗りつぶす。
 
結末を語るのは避けるが、もし自分のような人間がいたらぜひ読んでほしい。
必ず、なにか痕が残る。 
 
 
さて。
就活は「人生を左右する」とも「適当でいいんだよ」とも言われる。
前者は過度に学生を脅しているようで気分が悪いし、後者は生存バイアスのようで胡散臭い。
また、日本の就活は絶対悪であるかのように語られる。
しかし、俺の解釈では就活とは「通過儀礼」であるのだ。
二十数年も守られてきたモラトリアム人間が社会と自己との接続を初めて迫られたとき、耐えることができるのか。
成人になるには、部族から認められるにはやらねばならない。
通過儀礼なのだから、失敗して死ぬ人間も出るだろう。
残念ながらここは未開社会なのだ。

 

日本式の就活が嫌なら、スキルや経験を身につけてからでないとならない。
というか、そっちの方が合理的だし、当然の形だ。
資格でも実績でも作ってしまえば嘘をつく必要はない。
中途採用で「あなたを動物に例えるとなんですか?」とか聞くアホはいないだろう。
……もちろんこれは最終手段だが。
やはり新卒チケットというのは強力で、やすやすと破り捨ててはいけないものらしい。
どんなに嫌でも一度ぐらいはやぐらに登って飛び降りるしかない。
もちろん、命綱はしっかりつけたうえで。 
 
ちなみに俺は成人の儀から逃げ出し、「大人」の資格を持たぬまま東京をうろついている。
 
 
俺の話を続けようか。
 
第一志望の会社があった。
会社の思想というか、あり方というか、すごく尊敬していた。
真面目に面接対策をしていれば通ったのかもしれないが、「素の自分を見せる」とか「気負いすぎない」とか調子のいいことを信じた結果当たり前のように落ちた。
一次面接は通っただけマシなのかもしれない。
 
それから簡単に就活を諦めた。
気力を全く失ってしまった。
しかし頭の中は焦燥感で蝕まれていく。
この新卒至上主義の社会でチケットを破り捨てたらこれからの人生はどうなるんだ、せっかく大学まで行っておいて……毎日ひたすら吐きそうになった。
だがまた「私の長所は〜」だなんてカケラも自分で思ってないことを言ったらさらに脳が壊れてしまう。
あんなことをするなら首をつってしまったほうがよほど簡単だ。
ああ、俺はこんなにも人間に向いていない。
いっそのこと……
 
なんて考えを延々と繰り返した結果、ついに天啓が降りた。
果てしない自己嫌悪と自虐と自傷の末、俺が導き出した結論。
それは、徹底的に自分の人生に無関心になる」という選択だった。
 
俺は俺のことがどうでもいいから好きなことをしてしまうのだ。
ニートだろうがフリーターだろうが、将来性のない仕事だろうが、どんな酷い人生になろうが、知ったこっちゃない。
もし心配して他人だったら止めるような生き方だろうと、この世で最もクソな奴に世話を焼く気はない。
 
こうして俺はネガティヴを突き通した結果ポジティヴに転向した。
適当に卒論を仕上げたあとは死んだ父の脛を噛みちぎってノープランで東京へ逃亡。
ダラダラとニート生活を送りながら、これからどうやって自分の人生を台無しにしてやろうかと企むことにした。
 
そうしていると気づいたが、第一志望の会社は「行きたい会社」ではあっても「やりたい仕事」ではなかったのだ。
そして人生でたった一度だけ「やりたい仕事」が見つかったことを思い出す。
たぶんそれは「なりたい自分」に最も近いところにあったから。
 
そんなこんなでフリーランスとアルバイトの中間みたいな状況で飯を食うことを夢見ながら必要な勉強をしたりゲームしたりゲームしたりゲームしたり、求人先に真っ白な職務経歴書をドヤ顔で送りつけたりしている訳だ。
 
 
 「(゚、゚トソンフラジールのようです」は、身勝手な人たちの、諦めの物語である。
誰しもがそろそろ、何かを諦めなくてはいけない。
未練を断ち切らなければならない。
俺は真っ当な人生を諦めたから無敵になれたが、決して褒められたものではない。
数年したら後悔して地獄のような責め苦を受けて野垂れ死んでいるかもしれない。
そのときは笑ってくれ。
文字通り死んでも新卒で就職したくなかったのだ。
俺みたいになりたくなかったら、諦めてESを書くべきだ。
 
日本の就活で人は死ぬ。
しかし死ぬぐらいなら別の道を探そう。
「よりよい生き方」というのはそれに殉じるほど価値あるものなのだろうか。
ミミズだってオケラだってアメンボだって生きているのに。
生きる意味なんて存在しない。
同様に、死ぬ理由だってどこにもないのだ。
もし見出してしまったとすれば、それは自分の勝手な価値観が生み出した錯覚だ。
くだらないから今すぐ投げ捨てるべきである。
明日の自分を苦しめてでも今日生きるのだ。
 
なんの話だったかな。
卑怯な俺は逃げ出して、それでも生きてます。
そんな感じ。
 
 
※ ※ ※ ※ ※
 
「30までに結婚できなかったら、猫でも飼うかな」
ITがぼやいた。
そういやこいつには結婚願望があった。
だが職場には全く出会いがない。
猫を飼う口実が欲しいだけなのだと俺は睨んでいる。
 
田舎暮らしも口では探しているなんて言っているが、女の子の誘いを蹴ってクリスマスにITの家へバカ騒ぎしに行った時点でどうしようもない。俺もそこにいたけど。
 
今の世の中結婚しない選択肢も普通になってきたが、意識する年齢であることは事実だ。
「将来についてはいくら悩んでも時間が足りない」というのは、彼(ら)自身にも当てはまる。
就活なんて、今まで流されるだけだった人たちの最初の選択に過ぎない。
つまづいたからといって気にしてる場合ではない。
うっとうしいことに、人生は長いのだ。