菊地真カバー版「明日、春が来たら」について
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彼女はこの曲を感情的に歌う。
松たか子は自身のデビュー曲である「明日、春が来たら」を、包み込むようにまっすぐ歌っている。
エモーショナルに“歌い上げる”歌唱法とは対照的だ。
聴く者の記憶や心情を呼び起こすような普遍性のある優しい歌声は、時代を問わず誰の心にも届く。
……そんなことを、どこかの音楽ライターが書いていた。
一方で、菊地真はこの曲を、それこそ“歌い上げる”ようにカバーしている。
彼女の声には、慈しむような、懐かしむような、それでいて哀しげな色があるように思えてならない。
この歌唱が普遍性を欠いているというのなら、真はひどく個人的な感情をこの歌詞に託していることになる。
彼女は、いったい何を思いこの曲を歌っているのだろうか。
曲中の歌詞では、甲子園球児の「君」を慕う少女が当時を思い起こしている。
真が自身を少女の姿に重ねているとすれば、「君」はやはり信頼するプロデューサーだと考えられる。
では、サビの「夕立が晴れて時が 止まる場所(をおぼえてる?/をもう一度)」は、どのように解釈するべきだろうか。
夕立とは、夏の夕方に激しく降る雨のことである。
この歌詞世界における「夏」は、甲子園が開かれる季節を意味している。
Aメロの歌詞「スタジアムの歓声」がコンサートでのそれと重なるように、彼女のライブと読み替えられる。
また、「雨」が悲しみや涙の比喩として用いられるのはおなじみだろう。
つまり「一世一代の大舞台での失敗」──無印のドーム失敗エンドが思い起こされる。
けれども「夕立」は晴れたのだ。
悲しみを乗り越えた彼女のこれからのアイドル活動は、輝かしいものになるに違いない──。
……本当に?
でも、もう今日みたいな思いは、ゴメンなんですボク。
ううう……
まだ16歳の彼女はひどく臆病で、傷つきやすい。
アイドルをやめるという選択肢が脳裏をよぎるほどに、追い詰められていた。
「言えなかった 永遠の約束」──成功エンドでは明かされた、自分のプロデュースを続けてほしいという願い。
真がそれを口にすることはなかったのである。
また、街のどこかであったら声をかけてください。
誰かと歩いていても、気にしないで、ボクの名前を呼んでください!
ボク…、ずっとその日を待ってますから…。
雨は上がった。それでも、時は動き出さない。彼女が待ち続けている限り。
真は夏に、プロデューサーの影にとらわれたままだ。
明日、春が来たら 君に逢いに行こう
真が、アイドルをやることの意味──「行動で、なにかを変えること」。
繰り返されるこのフレーズが、季節を乗り越えんとする決意の表れだと信じて。
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この文章は、2021年8月に頒布された16歳菊地真ソロ楽曲アンソロジー
『M@KOTO DISCOGR@PHY 16th edition』へ寄稿したものに、一部修正を加えたものです。
主催のみへん様から許可をいただき、公開しております。
※ 購入は以下のリンクより※
makotodiscography.wixsite.com
○公開当時のツイート
○合同誌の話
— しゃけぞう (@salmonrisotto) 2021年8月30日
・立ったはずの跡を濁しまくってる害鳥なので参加するべきではなかった けど「合同誌への寄稿とか超やりてえ〜」との欲望に逆らえなかった オタクとして死に損ねてる
・大枠は割とすぐ思いついた ただ楽曲希望の抽選前だから落ちたら詰んでた 見切り発車
・書く前に改めてコミュとか見たら「なんだこいつ……顔が好みすぎる……」と困惑した 別に思い入れがあるわけではない ただ美人すぎただけだ 全然思い入れなんてない
— しゃけぞう (@salmonrisotto) 2021年8月30日
・カラオケで原曲風とカバー風でそれぞれ5回ずつ歌った 特に得るものはなかった 残り時間ずっとゆら帝歌ってた 楽しかった
・「恐らく俺に求められている芸風」と「それでもエッセイ風味の感傷的なやつが書きたいという下心」が入り混じってキメラが爆誕した 要するにいつもの文章
— しゃけぞう (@salmonrisotto) 2021年8月30日
・書き出しは気に入ってるけどうまくまとめられなくて〆切日にひんひん泣きながら無理矢理締めた 要するにいつもの流れ
・1行目に「そう感じるのはお前だけだろ」と言われたら秒で論が破綻する 自分の感性がズレてないかビクビクしながら書いた みなさんはどう思いますか
— しゃけぞう (@salmonrisotto) 2021年8月30日
・途中文体がキモくなるのを除けばそこそこの出来だと思う でもイラストと並ぶと霞む あの表情の美しさをどう形容すればいい 俺は無力 つらい
・制作もちょっと手伝った 大したことしてない って言うと無責任だね 自分にできることは一応やった、とだけ 逆に余計な仕事を増やしてしまった節もあるから申し訳ない 俺は楽しかったです
— しゃけぞう (@salmonrisotto) 2021年8月30日
・結局菊地真の話ぜんぜんしてないや 「ウイニングボール」の「ニ」と「ー」がいいよね エロくて(了)
○以下、酷く個人的なクソ余談のため閲覧非推奨
とりあえず読み返して思ったのは「ダメにきまってんだろ!!!」である。
何がダメかというと、執筆前に主催のみへんさんに「カップリング色が強いものは控えてくださいね」と言われていたのだ。
菊地真個人にフィーチャーした企画なので当然の配慮なのだが……え、俺のこの文章ダメじゃね? ライン越えてね?
当時も不安でみへんさんに相談して大丈夫とは言ってもらえた訳だが、下手に俺が手伝いとかしゃしゃり出たせいで指摘しづらかった……とかなら申し訳ねえ~~(しかもその「手伝い」も今思うと余計なことが多くて本当に迷惑)。
じゃあ別の内容にしろよ、ってド正論が2秒で返ってくるだろうが、上記の通りこの企画のお話いただいた翌日ぐらいには頭ん中で大筋ができあがってたからもったいないマインドが働いた。
いや、これでも描写変えたり削ったりしてだいぶ抑えたつもりだったんだよ……あの時は。
他の参加者さんで「この路線が許されるならもっと別のを書きたかったのに」という方がいらっしゃる場合、遠慮なく石を投げてください。
本当に申し訳ございません。
あと字数もちょいオーバーしてる。やりたい放題か?
しかもブログ投稿する前に珍しく下書き読み返してたらコラムに1個盛大にミスがあってメチャクチャ青ざめてる。だから読み返したくなかったんだよ! 何が手伝いだ自分の文もまともに書けてないのにクソボケがよぉ!
いま慌てて修正したけど絶対手元の実物と見比べたりするなよ! 絶対だぞ!
でも買ってね! 買ってかずうらさんのイラストを見ようね!
makotodiscography.wixsite.com
帰って実物読み返したらミス消えてました。
よかったー。……あれ、だったらあのミスってる文章はどっから出てきたんだ? 怖。
それと、コラムで剽窃……もといお借りした文章はこちら。
「エモーショナルな歌い方でないからこそ、真っすぐに人の心に届く」という今までになかった視点を与えてくれた、
考察のスタートにもなった示唆に富むすげーいい文章なのに「どこかの音楽ライター」呼ばわりはいくらなんでも最低だと思う。
深くお詫び申し上げます。
www.musicvoice.jp
あと、確定申告のとき部屋中の書類をひっくり返してたら当時のメモが出てきた。
あまりに字が汚くて恥ずかしいので写真はあげないが、面白そうなものをいくつか紹介。
「振り返る君遠くへ 追いかけてるまっすぐ」→打たれてる! …負けてる?
あんまり歌詞を意識して聞いたことなかったけど、放物線描いて飛んでいくボールを振り返って追いかけるのは打たれた側のはずである。
コラム最終稿では、この曲に出てくる「君」をプロデューサー(逢いに行く相手)と確定させたが、
上記歌詞の「君」(打たれて負ける)もプロデューサーであるとは考えにくい。
だとすると、実はこの「君」をドーム失敗エンドにおける真自身と読めるのかなあと。
こっちの方向でも面白いものが書けたかもしれない。
……が、プロデューサー説・真自身説を融合させられるほど字数に余裕があるわけでもなく、何より力量がないため断念。
どこか他人事のように自分のアイドル姿を見ていた?根拠になりそうなコミュあったっけ
→コンサート前コミュ、「行動で何かを変えること」 変化の結果としての? もしくは乖離 弱さを見せないアイドル像
上に付随して。
アイドルとしてのペルソナを自分と切り離していると考える系。ドームエンドのアレといい、俺ほんとこの話好きね。
あと、たぶん真自身説は「そばにいたら二人なぜかぎこちなくて そばにいればもっとわかりあえたはずなのに」のあたりをこねくり回せばいけそうだよ、って2年前の俺が言ってた。今の俺には皆目見当がつかない。
「時が止まる」のはコンサート後?→動き出さないから春が来ない
…過去最悪の考察だぞオマエ!
この時チェンソーマンにハマってた。
流れ
原曲→感情的→夕立→最後のメール→結び
んでどっかでハタンしたら君=アイドル真説を追加してうやむやにする
ハタンしなくてよかったね。
○終わりに
今ざっくり読んで思うのは、「時が止まる場所」がそんなネガティブな意味な訳ねえだろってことですかね。
永遠にこの時が続いて欲しいと願うような美しい光景とか、そんな意味でしょうよ。
ひと様の曲の歌詞を使って二次創作モドキの考察ごっこしようと躍起になった結果、元の意味を見失っちゃダメやろがい。
でもまあ、思いついちゃったんで。しゃーない。オタクは邪悪。
何にせよ、まあまあうまくまとまってるとは思うよ。
もう少し綺麗にはできるかもだけど、これで十分かなって。
菊地真について何か書くのはもうこれで最後になりますが、俺の中での答えはもう出せたしぼちぼちな結果ではないでしょうか。下の記事以上のことはもうなんか言える気しないし。
chaosorder.hatenablog.com
あとはそうっすね、りあむの創作がんばりまーす。
www.pixiv.net
今年の9/12に10万字くらいのを投下する予定でしたが、大筋はできてるのに細かいところで迷走し始めて間に合わなくなったので来年のりあむ誕までには。
これについてはちょっと、妥協したくないんで。
今年のぶんは……2万字くらいのバカバカしい短編とかが間に合えば公開します。
そんな感じで。